ココ・ファーム・ワイナリー収穫祭レポート2023

日本の自然派ワインを牽引する存在『ココ・ファーム・ワイナリー』。年に一度の収穫祭は、日本ワインのレジェンドも集う、友愛に満ちた空間でした。

今年は40回目の記念すべき節目。『ココ・ファーム・ワイナリー』の心地よさを堪能できる、年に一度の収穫祭!

栃木県足利市にある『ココ・ファーム・ワイナリー』は、1950年代、当時の特殊学級の中学生たちとその担任教師だった川田昇(かわたのぼる)氏によって開墾された、ブドウ畑から始まりました。彼らは『こころみ学園』を立ち上げてそこで生活を始め、山の急斜面の畑でブドウを育て、やがて『ココ・ファーム・ワイナリー』を設立。園生によって丁寧に栽培・選果された果実は、ワイナリーでさまざまなワインへと醸造され、高い評価を得ています。ほぼ全てのキュベで野生酵母による発酵で、できる限りナチュラルに造られたワインは、こんにちの日本における自然派ワインの潮流の源であるとも言える存在なのです。

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晩秋の空の下、葡萄畑で音楽を聴きながら、できたてのワインを飲む…。絶対にまた来たくなる、至福の時間。

そんな『ココ・ファーム・ワイナリー』が、年に一度、大きな賑わいを見せます。それが、11月に開催される“収穫祭”。ことしは40年目を迎える節目の年であり、コロナ禍以前のような賑わいを見せました。11月18日と19日の二日間で、人出はなんと1万人。予約制でありながら遠方からの来園者やリピーターも多く、人気の高さがうかがえます。チケットを購入すると飲めるのが、ワイナリー内でしか飲むことのできない“できたてワイン”です。

オリジナルのカラフェに、タンクから直接なみなみと注がれた“できたてワイン”は、もちろん無濾過。亜硫酸塩も最小限にとどめた、できたての味わいです。今年の“できたてワイン”はほんのりピンクの可愛い色みで口当たりがよく、ほんのり甘さも残った優しい味わい。美味しくてぐいぐい飲めてしまうほどですが、意外にもアルコール度数は11.5度だそう。この口当たりの良さと、秋空で飲む楽しさからか、愉快に酔っ払ってしまう人も多数!

障がいを持つ子供たちと先生が開墾した、山の斜面のブドウ畑。38度の急斜面に登って、ワインを飲んだり音楽を聴いたり。

『ココ・ファーム・ワイナリー』の自家畑は、ワイナリーのすぐそばにある急斜面。この日だけは、来場者はスキーのジャンプ台よりも急角度だという平均斜度38度の畑によじ登り、思い思いにワインを飲んで過ごします。実際に目の当たりにすると、思った以上に急峻なブドウ畑にびっくり。水はけの良さなどのメリットは大きいものの、開墾の苦労や、栽培の大変さがしのばれます。現在、自家畑では化学肥料や除草剤は一切使わず、手作業による丁寧な栽培が行われていますが、収穫祭の時にはこの畑でワインを堪能しすぎて、転げ落ちてしまう人も出るほどです。

収穫祭のもう一つの楽しみは、ブドウ畑やワインの味わいにぴったりマッチする、生演奏の音楽。スペシャルゲストが登場、ブドウ畑が観客席になり、心地よい音楽が流れる贅沢な時間が味わえます。

写真上から:
バイオリニストの古澤巖さん
Saigenjiさん

乾杯の音頭は『ココ・ファーム・ワイナリー』の取締役でもある、ブルース・ガットラヴさん。この日のために、北海道から駆けつけての参加

現在、北海道・岩見沢の10R(トアール)ワイナリーを主宰しているブルース・ガットラヴさん。名だたる醸造家が彼に師事しており、とくに日本の自然派ワインの旗手は、いずれも彼と深い親交を持っています。“日本ワインの中興の祖”とも呼ばれるブルースさんですが、もともとは『ココ・ファーム・ワイナリー』の招きによって、ワイン造りのコンサルタントとして来日したという経緯があります。本来は期間限定の契約だったというブルースさんは、『こころみ学園』の園生たちや、園長の川田さんの“やってんべ(やってみよう)精神”に魅せられて、日本に残ることになったそう。現在でも『ココ・ファーム・ワイナリー』の取締役であり、『こころみ学園』の評議員を務めているブルースさんは、「今日は素晴らしい日になりました。いろんなことがこの40年変わってきましたが、変わらないのはお客さんへの感謝。たくさん飲んで、音楽を聴いて、友達を作って、楽しい一日にしましょう!」と乾杯の音頭を取り、大勢の来場者がそれに応えました。

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栽培責任者の石井さん、醸造責任者の柴田さんが、今年のワイン&ブドウの出来について報告!

『wa-syu』ディレクター兼バイヤーの菊地が、早速インタビュー!「今年は雨が少なかったことで、よいブドウができたのですが、ちょうど6月の開花時期に天候が崩れ、開花に時間がかかって苦労しました。またとても暑かったということもあって、自家畑でいちばん早いブドウは8月20日から収穫することに。これはかつてないほどの早い時期での収穫です。そこから11月まで、こころみ学園のみんなと一生懸命に収穫や選果をしながら、暑くて長い収穫期が続きました。結果的にはたいへん良いものができて、うれしいヴィンテージになりました(写真上左:栽培責任者・石井さん)」
「今日の“できたてワイン”は、口当たりの良さを目指して醸造しています。軽く飲めるけれど、アルコール度数はしっかり11.5度。甲州、シャルドネ、メルロー、カベルネ・ソーヴィニヨンなど、19種類をブレンドしています。このワインは最終的にブレンドを決めて、製品として瓶詰めしていく予定です。今年はブドウの出来が良いので、醸造は楽。あまり難しいことを考えずとも美味しくなっています!(写真下右:醸造責任者の柴田さん)」

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ナチュラル系ワインの立役者、フランソワ・デュマさんとも再会! 日本ワインの転換期を語り合える、レジェンドが一同に会して。

『wa-syu』でのロングインタビューで、日本のナチュラル系ワインの黎明期を語ってくれた醸造家、フランソワ・デュマさんとも再会! デュマさんは『LE VIN NATURE』を主宰、フランスのナチュラルワインを日本に紹介すると共に、自らの手で日本ワインを醸造しています。『wa-syu』バイヤーの菊地とは旧知で、早速新酒で乾杯! ブルースさんとデュマさんとは『ココ・ファーム・ワイナリー』を通して知り合い、当時の日本の若手醸造家たちと勉強会をしていたそう。デュマさんも、『ココ・ファーム・ワイナリー』と『こころみ学園』の取り組みに共感し、感銘を受けた一人なのです。「2005年にはフランスにも見学に行こうということになって、私とブルースがアポイントを取って、一緒にシャンパーニュとかロワール地方にバスで行ったんです。タカヒコ(曽我貴彦氏。ドメーヌ・タカヒコ主宰)がいたし、佐々木さん(農楽蔵の栽培家)とか、記者の鹿取みゆきさんとか、たくさんの人が行った。旅のあとみんな「ナチュラルワインをやるぞ!」って盛り上がっていました(デュマさん)」。自然派日本ワイン誕生のきっかけになったとも言われている歴史的なこの旅も、『ココ・ファーム・ワイナリー』と『こころみ学園』がハブとしての役割を担っていたのです。

ワインによって、真のバリアフリーが実現。“フツウ”って何だっけ?と考えさせられる、心地よいコミュニティーを体感

この収穫祭では、『こころみ学園』の園生たちも共に楽しみ、来場者をおもてなししています。『ココ・ファーム・ワイナリー』取締役の池上峻さん(写真上左)は「園生たちと作業していると、大変な農作業も不思議と楽しいんですよ。ただし園生も高齢化が進んでおり、畑に出られない人も多くなってきています。そんな中でも、例えば車椅子での生活を送る園生に、選果などの座ってできる仕事を持って行くと、実に生き生きと作業をしてくれる。働くことや、誰かのために何かをするということは、みんなにとって息をするような、自然な事なのですね」と語ります。「そういうふうにして出来たワインを、これだけ多くの人に飲んでもらったり、賑やかに楽しんでもらえるのは何よりうれしいことだなと思います。それに、酔っ払ってべろんべろんの来場者を、園生が逆に助けて、しかも“飲み過ぎだ”って注意したりしていることもあって(笑)。普段の価値観が逆転したり、本当の意味で壁がなくなるのが、この収穫祭、そしてワインのおかげだと思うんです」。

好きにならずにはいられない『ココ・ファーム・ワイナリー』のワインと『こころみ学園』のみなさん。より美味しくなっている、2023ヴィンテージに期待!

『ココ・ファーム・ワイナリー』は障がい者施設が母体でありながらも、世界に認められる本格的な味わいのワインを造り出していることに定評があります。“やってんべ”精神で、つねに新しいこころみを続け、適地適品種のワイン用ブドウを栽培。マスカット・ベーリーA、リースリング・リオン、小公子などの日本固有種だけでなく、プティ・マンサンやタナなどの欧州系品種にもチャレンジしています。また白、赤はもちろん、スパークリングやオレンジワイン、デザートワインまで幅広い銘柄も楽しめます。収穫祭で振る舞われた新酒をはじめ、2023ヴィンテージは、特に期待大です!

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ココ・ファーム・ワイナリー
栃木県足利市田島町:(有)ココ・ファーム・ワイナリー

ココ・ファーム・ワイナリー(COCO FARM&WINERY/ここふぁーむわいなりー)は、栃木県を代表するワイナリー。1958年に中学の特殊学級の教員だった川田昇(かわたのぼる)氏と特殊学級の子どもたちが、2年がかりで平均勾配38度の3ヘクタールの畑を開墾。その麓にこころみ学園が設立されました。その後ココ・ファーム・ワイナリーが設立され、醸造の認可が下りワイン造りを開始。急斜面の畑地は葡萄の生育に良いだけでなく、子どもたちの心身を鍛えるためにも重要な役割を果たしました。ワイナリーの敷地内には、こころみ学園栽培の原木椎茸や足利マール牛など、地元の農産物や安全な素材を中心に、 自家製ワインとともに美味しい料理が楽しめるココ・ファーム・カフェや、葡萄畑や醸造タンクも見渡せるワインショップが併設されています。

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